「フルリモートで募集をかけたいが、何から手をつければいいか分からない」
「求人票に『リモート可』と書いてはみたものの、応募が集まらない」
人手不足に悩む企業の採用担当者から、こうした声を頻繁に耳にします。
フルリモート採用には、適切な順番があります。本記事では、募集前に固めるべき前提条件から、応募者を惹きつける求人設計、そして入社後の定着までを、最新の統計データと実務経験をもとに網羅的に解説します。
フルリモート採用を成功させるための市場背景
フルリモート採用を検討する際、まずは世の中のトレンドと自社の立ち位置を正しく把握する必要があります。
総務省データから読み解く「導入率50.1%」の実態
総務省の令和7年通信利用動向調査によると、テレワークを導入している企業の割合は50.1%。前年の47.3%から2.8ポイント増加しました。導入率が下落トレンドから反転した点が、この調査の大きなトピックです。
しかし、この数字を社内提案にそのまま使うのは危険です。調査対象は「常用雇用者規模100人以上の企業」であり、中小企業の実態とは乖離があるためです。
もう一点、導入目的の変化にも注目したいところです。前年から増加が大きかったのは「勤務者のワークライフバランスの向上」「障害者、高齢者、介護・育児中の社員などへの対応」、そして「人材の雇用確保・流出の防止」でした。今やテレワークは、優秀な人材を確保するための経営戦略そのものといえます。
テレワーク実施率と「頻度」の減少傾向
パーソル総合研究所の「第十回・テレワークに関する調査」によると、テレワーク実施率は22.5%と横ばいです。一方で目をひいたのは「テレワーク頻度の減少」です。「週に1日以下」のテレワーカーが約5割を占めており、テレワークを導入している企業は増えても、実際の運用頻度は絞られつつあるのが現状です。

https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/telework-survey10/
この「制度はあるが、出社回帰が進んでいる」という状況は、逆に言えばフルリモートを維持できる企業にとっては、他社との差別化を図る大きなチャンスとなります。
転職市場で狙う「フルリモート志向」の人材
そして、採用の観点で最も重要なのがこの動きです。
テレリモ総研の調査(2025年)によれば、仕事選びで「リモートワーク可」を重視すると答えた人の割合は、いま多くの企業が採用したがっている20代〜30代で過半数、40代でも4割をを超えています。

https://www.lassic.co.jp/teleremo/return-to-office-and-job-change
特に注目すべきは、給与が同等以下であっても「フルリモートで働ける環境」を優先する層が約7割存在するという点です。

https://www.lassic.co.jp/teleremo/return-to-office-and-job-change
採用予算が限られる企業にとって、賃上げ競争に参加せずとも働き方の柔軟性を提示することで、即戦力層を獲得できる可能性は十分にあります。
フルリモート人材の募集前に決めるべき「5つの前提条件」

求人票を作成する前に、社内で以下の5項目を合意しておく必要があります。これらが決まっていない状態で募集を開始すると、採用後のミスマッチや早期離職を招くリスクが高まります。
1. 評価制度の先行整備
厚生労働省のガイドラインでも示されている通り、「出社していること」を評価する仕組みは適切ではありません。
テレワークを実施せずにオフィスで勤務していることを理由として、オフィスに出勤している労働者を高く評価すること等も、労働者がテレワークを行おうとすることの妨げになるものであり、適切な人事評価とはいえない。
厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf
評価制度がないままリモート採用を行うと、オフィスにいる社員が優遇される印象論の評価になり、リモート社員の不公平感が蓄積します。事前に「成果ベースの評価制度」を整えておくことが、採用成功の必須条件です。
2. 労務・契約のリーガルチェック
県外や地方に住む人を雇用する場合、確認すべき実務があります。
社会保険や住民税の手続き、通信費や光熱費の負担をどうするか、就業規則にリモート勤務の規定があるか。業務委託として契約する場合は、雇用との線引きも整理が必要です。
いずれも募集前に決めておかないと、内定を出してから慌てることになります。
3. 職種による適用の切り分け
全社一律のフルリモート適用は、評価の難易度が高くなります。職種ごとにフルリモート適用可否を整理し、求人票で対象職種を明示することが重要です。
成果物が明確な職種(開発、制作、広告など)はフルリモートに向きますが、部門間調整が頻繁な職種(営業など)は、無理にリモート化すると生産性が落ちる可能性があります。自社の業務特性に基づき、どの程度の裁量を認めるかを明確にしましょう。
4. 経営層との合意形成
「フルリモート採用」の方針を、経営層が撤回しないという合意を取ることが重要です。
フルリモートを掲げて採用した後に、経営判断で方針を撤回した場合、これは採用時の約束を破ることを意味します。そして影響は、当事者だけには留まりません。
テレリモ総研の調査(2025年)によれば、勤務先がリモートワークから出社方針へ転換した場合、転職を検討する層が20代〜40代で6割を超えました。

https://www.lassic.co.jp/teleremo/return-to-office-and-job-change
30代よりも40代の方が出社方針への忌避感が高いのは、子育てのタスクフローを「通勤時間がない前提」で組んでいる可能性も考えられます。会社の制度変更ひとつで、子供を含む家族全体に大きな影響があるとすれば、転職を検討するのもやむを得ないでしょう。
採用後に制度を廃止すれば、採用時の約束を破ることになり、既存社員のモチベーション低下や離職だけでなく、「あの会社は制度変更のリスクがある」と見なされ、将来の採用にまで影響が及びます。撤回リスクがある場合は、募集要項に最初から条件を記載するなど、誠実な設計を心がけてください。
5. 働き方の設計:フルリモートか、ハイブリッドか、選べる設計か
一律のフルリモートを強制するのではなく、「在宅と出社のバランスを自分で選べる」設計が、現代の求職者には最も好まれます。

出典:テレリモ総研「働き方と転職意識に関する調査」
https://www.lassic.co.jp/teleremo/return-to-office-and-job-change
意外に思われるかもしれませんが、働き手が最も求めているのは「フルリモート」そのものではありません。テレリモ総研の調査では、働き方に関して改善してほしい点として「個人の事情に合わせた柔軟な働き方を選べるようにしてほしい」が42.5%、「在宅と出社のバランスを自分で調整できるようにしてほしい」が35.2%で上位に挙がっています。
求められているのは二択ではなく、自分で選べる裁量です。一律のフルリモートより、選択できる設計のほうが訴求力が高い可能性があります。自社の業務特性と照らして検討してください。
母集団形成:応募者を惹きつける求人戦略
前提が固まったら、いよいよ募集開始です。求人サイト等での検索動向を意識した戦略的なアプローチが求められます。
「リモート可」と「フルリモート」は別物として扱われている
求人票の表記でつまずく企業が少なくありません。
「リモートワーク可」と書いてあっても、実態は出社がメインで在宅は月に数回、というケースがあります。試用期間中は原則出社で、その後に移行するという運用もあります。
応募者はこの乖離を経験的に知っているため、曖昧な表記を警戒します。結果として、条件を明確に書いている求人にだけ応募が集まりやすくなります。
週何日リモートなのか、試用期間中の扱いはどうなるか、出社が必要な場面はあるか。正確に書くほうが、結果的に母集団は増えるでしょう。
求職者は「フルリモート」を名指しで探している
表記が重要である理由を、データでも確認しましょう。

https://jp.indeed.com/news/releases/20250422
Indeed Japanが2019年1月から2025年3月までの検索動向を分析した調査によると、リモートワーク関連の仕事検索に占める「フルリモート」の検索割合は、2020年3月時点の1.7%から2025年3月には35.9%まで拡大しました。
フルリモート単体の検索割合で見ると、2019年3月と比較して6年間で90.9倍。リモートワーク全体の検索の伸びが2023年以降に鈍化した後も、フルリモートは右肩上がりを続け、直近1年でも1.1倍に増えています。
求職者は「リモートワーク」ではなく「フルリモート」というキーワードで探しているのです。求人票の表記が曖昧だと、検索にすら引っかからない可能性があります。
通勤圏外の人材プールへのアクセス
Indeed Japanの調査結果では、「地方在住者や移住者、育児・介護中の労働者など、従来は就業機会が限定されていた層を労働市場に取り込む上で、フルリモート勤務の整備は有効な人材獲得手段になりうる」と指摘しています。
都道府県別に検索割合を見ると、「リモートワーク」全体では神奈川県や千葉県といった首都圏が上位5位以内に入ります。ところが「フルリモート」では、首都圏は上位5位に入りません。
代わりに上位に入るのは、沖縄県、長崎県、秋田県、そして福井県や富山県といった北陸地域です。つまりフルリモートを求めているのは、通勤圏外にいる人材です。
これは人手不足企業にとって、競合の少ない人材プールを意味します。フルリモート求人の最大のメリットは、都市部の採用競争から離れ、地方在住の優秀な人材プールにアクセスできる点です。
従来は採用が難しかった地域の人材が、フルリモートを条件に転職先を探しています。この市場をターゲットにすることが、採用成功の近道です。
なお、この調査の対象期間は2025年3月までです。直近の数値ではなく、6年間の構造的なトレンドとして読んでください。
給与以外の訴求ポイント
賃上げが難しい場合、「評価の透明性」や「育児・介護との両立支援」を強く打ち出してください。
前述のとおり、給与が同等以下でもリモートを選ぶ層は69.9%います。つまり働き方そのものが訴求材料になります。そのうえで、以下の3点を明示すると効果的です。
- 柔軟性(自分で調整できる余地があるか)
- 評価の透明性(どう評価されるかを説明できるか)
- 両立支援(育児や介護と両立できる設計か)
テレリモ総研の調査で、出社回帰なら転職を検討すると答えた523人にその理由を尋ねたところ、「家事・育児・介護との両立」を挙げた割合は40代で33.3%と全年代で最も高くなりました。両立支援は、経験豊富な40代ベテラン・マネージャー層の獲得に効果がある切り口といえます。
選考設計:オンラインで見極めるための基準
フルリモート人材の採用では、求職者の居住地が遠隔などの理由で、一次〜二次面接をオンラインで対応するケースもあります。オンラインで採用面談を実施する不安を解消するには、評価基準の明確化が必要です。
「会えないこと」を補う選考プロセス
オンライン面接を数回しただけで、その人と何年も一緒に働くかを決める。不安を感じない採用担当者のほうが珍しいでしょう。
ただ、ここで思い出しておきたいことがあります。対面の面接であれば人を正しく見抜けるのか?というと、そんなことはありません。面接の精度が低いのは、リモートに限った話ではないのです。
問題は「会えないこと」ではなく、「何を見るかが決まっていないこと」にあります。「何を見るか」という基準さえあれば、オンライン面接でも適切に見極めは可能です。
リモートワーカーを見極める3つの視点
では、リモートで働く人材の何を見ればいいのか。筆者がリモートのスタッフを選ぶときに見ているポイントは3つです。
1.言語能力(読み/書き)
リモートワークではSlackなどのテキストコミュニケーションが業務の中心になるため、事前にテストを実施して言語能力のスコアを確認しています。
理由は単純で、発信者の意図を読み間違える人や、誤解を招きやすい文章を書く人は、その分のコミュニケーションコストが高くなるからです。対面なら表情や声色で補正できる誤解も、テキストでは補正が効きません。
2.応募書類が整っているか
読む人のことを考えて書類を作成できているかを見ます。とくに、応募する職種に合わせて職務経歴書の内容を調整している人は評価が高いです。
書類は、その人が「相手が何を知りたいか」を想像できるかどうかの証拠になります。リモートワークで最も必要なのは、まさにその能力です。
3.「わかりません」と言えるか
3つ目が最も重要かもしれません。分からないこと、知りたいことを、ちゃんと声に出して質問できるかどうか。Web面談での質問力や会話力を見ています。
リモートでは「分からないことを隣の人に聞く」ができません。堂々と「わかりません、教えてほしいです」と言える人でないと、業務が止まります。
逆に「分からないことは恥ずかしい」「聞くのは申し訳ない」と考えている人は避けています。これは人柄の問題ではありません。リモート環境では、その価値観が業務上の意思疎通を対面よりさらに困難にしてしまうからです。
対面であれば、上司が様子を見て「困ってる?」と声をかけられます。リモートではその機会がありません。本人が声を上げない限り、誰も気づけないのです。
段階を踏む採用ルートという選択肢
フルリモートでの働きぶりや、管理者との相性が不安な場合は、まず業務委託として仕事を依頼し、相性や仕事の進め方が確認できた段階で、雇用を打診する。実際にこのルートで採用している企業は少なくありません。
ただし、ここには法的な注意点があります。
「試用期間として業務委託を使う」という発想は危険です。雇用を前提に置くと、委託期間中に指揮命令や時間拘束が入り込みやすくなり、労働者性が認定されるリスクが生じます。いわゆる偽装請負の問題です。
適法に運用するなら、独立した事業者として成果物単位で発注し、結果として双方が望めば雇用を打診する、という形をとる必要があります。この違いは言葉の問題ではなく、委託期間中に指揮命令をするかどうかという実態の差です。
AI面接を導入する前に確認すること
選考の効率化として、AI面接の導入を検討する企業が増えています。工数削減の効果は確かにあります。ただし、応募者側のデータを見ると慎重になるべき理由があります。

https://www.mynavi.jp/news/2025/05/post_49027.html
マイナビの調査では、AI面接が含まれることを理由に受験意欲が下がる求職者は77.5%です。母集団形成に苦戦している企業には無視できない数字ではないでしょうか。
また、筆者の見聞きした限りでは、口コミサイト等で「面接官がAIだった」という情報がネガティブな文脈で広まっているケースもありますので、AI面接の活用は慎重に検討してください。
入社後の定着施策:最初の1ヶ月で躓かせない
採用は内定後が本番です。特にフルリモートでは、業務以前の環境整備が定着率を左右します。
これは、フルリモート人材だけの特別なオンボーディングではなく、新しく入社してくる人材すべてに共通したオンボーディング施策としましょう。
「業務に必要な前提情報」を渡す
多くの企業は業務研修を用意します。しかしフルリモートの入社者が実際に困るのは、業務そのものではありません。
どこにどの資料が格納されているのか分からない。社内システムの検索性が悪く、AIチャットに尋ねてもうまく探せない。必要なファイルにアクセスしようとするたび、Googleドライブの権限設定を依頼しなければならない。
こうした業務以前のところで、毎回数十分が消えていきます。
出社していれば、隣の席の人に「これどこにありますか」と聞けば10秒で終わる話です。リモートではそれができません。業務研修より先に、業務にたどり着くための地図を渡す必要があります。
「出社していれば自然に察せること」を可視化する
オフィスにいれば、誰が何をしている人か、どの部署とどの部署がつながっているかは、日々のやり取りの中で自然に分かってきます。リモートではその学習が起きません。意識的に整理して、手元で見える形にしておく必要があります。
具体的には以下のようなものです。
- Slackチャンネルの一覧表(どのチャンネルで何が話されているか)
- グループメンションの一覧表(誰に聞けばいいかが分かる)
- 組織図と、各部門の業務のつながりを示した資料
- 主要な資料の格納場所とアクセス権限の一覧
いずれも作るのに大きなコストはかかりません。しかし用意されているかどうかで、最初の1ヶ月の生産性は大きく変わります。
先輩フルリモート社員を、サポート役につける
最初の1ヶ月で必ずやるべきことが2つあります。
ひとつは、すでに社内にいるフルリモート社員をサポート役につけること。入社時にどこで困るかを最もよく知っているのは、同じ経験をした人です。管理職が想像で用意するマニュアルより、実際に困った人の知見のほうが役に立ちます。
もうひとつは、別部署のメンターをつけて定期的に面談でフォローすること。これは出社の場合と同じですが、リモートでは「雑談の中で相談する」機会が生まれにくいため、意識的に場を作る必要があります。
困ったときにすぐ相談できる環境を作ることが、孤独感を解消し、定着につながります。
まとめ:順番を守れば成功率は上がる
フルリモート採用で失敗する企業は、往々にして「求人票を出す」ことから始めます。しかし、先に整えるべきは評価制度と労務環境、そして経営層の合意です。
この順番さえ守れば、フルリモートは人手不足を解消する強力な武器になります。大手が出社へ回帰し、通勤圏外の人材が動いている今は、フルリモートを実施できる企業にとって明らかな好機です。
まずは自社がフルリモートを維持・運用できる体制にあるか、今回のチェックリストをもとに見直してみてください。
(参考)
・総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000183.html
(閲覧日:2026年8月24日)
・総務省「令和7年版情報通信白書 テレワーク・オンライン会議」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd21b220.html
(閲覧日:2026年8月24日)
・厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf
(閲覧日:2026年8月24日)

