「リモートワーク中の部下を、どう評価すればいいか分からない」
「頑張っているのは伝わるが、数字で判断できる材料が足りない」
リモート社員をマネジメントする立場の方から、こうした悩みをよく耳にします。まじめなマネージャーほど、印象論で点数をつけることに抵抗を感じるものです。
しかし、評価の難しさは「リモート」という就業環境そのものが原因ではありません。「評価に必要な情報が、マネージャーの元に集まっていない」というプロセス上の問題です。
この記事では、パーソル総合研究所の調査データと国の方針を紐解きながら、リモート社員から正当な評価材料を引き出し、納得感のある人事評価を実現するための「1on1と期末レビューの設計法」を具体的に解説します。
なぜリモート社員の評価は難しいのか:その構造的要因
リモート社員の評価が難しい最大の理由は、「評価材料となる情報が自然には集まらない」という構造にあります。
マネージャーの悩みは「働きぶりの見えなさ」に起因する
パーソル総合研究所の「第十回・テレワークに関する調査」によると、テレワークに伴う多くの困りごとは減少傾向にある一方、「部下の仕事の様子がわからなくなった」という上司側の悩みだけが、ここ2年で増加傾向にあります。

https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/telework-survey10/
テレワーク普及から5年が経過してもなお、マネージャー層の「見えない不安」は解消されていません。この不安がある限り、評価は「なんとなく良さそう」という印象論に依存せざるを得ません。
問題の本質は「伝わっていない」こと
ここで、冷静に考えてみてほしいことがあります。毎日オフィスに来ている部下の仕事を、上司はどこまで把握しているでしょうか。
仮に部下が隣の席にいても、画面の中身や集中度合いまで把握することは、現実には不可能です。会議に出ている姿は見えても、その会議で何を判断したかまでは見えない。
つまり、マネージャー側の「オフィスにいれば評価できる」「リモートだから働きぶりが見えない」というのは、正確な認識とはいえません。
問題は「リモートだから見えない」のではなく、「伝えていないから評価できない」こと。この認識の転換が、評価制度を機能させるすべての出発点となります。
リモートワークの評価を代理指標(活動量)に頼るリスク
情報が集まらない組織では、成果の代わりに「測りやすいもの」を評価指標にしがちです。これを避けるべき理由を解説します。
ログイン時間や打鍵数は、成果ではない
ログイン時間やチャットの発言数、キーボードの打鍵数などは、あくまで「働いているらしい痕跡」にすぎません。これらを評価指標にすると、社員は「成果」ではなく「活動量が多く見える行動」に注力し始めます。
実際に、新型コロナで在宅勤務が増えた際、PCの監視ソフトを導入した企業では、それをハックするためにマウスジグラー(自動でマウスを動かし続けるツール)や偽装ソフト(タイピングシミュレーター)などが編み出され、国内外で話題になりました。
生成AI時代に「活動量」は無効化される
2026年現在、AIを活用して短時間で高い成果を出す社員が増えています。もし打鍵数やログイン時間を評価基準にしていれば、AIを使いこなす優秀な社員ほど「活動量が少ない」と低く評価されるという矛盾が生じます。
これからの評価軸は「場所」や「時間」から「成果」へ完全にシフトさせる必要があります。
国のガイドラインが示す「適切な評価」の原則
厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、以下の点が明記されています。
テレワークを実施せずにオフィスで勤務していることを理由として、オフィスに出勤している労働者を高く評価すること等も、労働者がテレワークを行おうとすることの妨げになるものであり、適切な人事評価とはいえない。
厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf
つまり、「出社していること」そのものを評価してはいけません。 しかし、具体的な評価基準がない現場では、無意識のうちにオフィス出社組が優遇されてしまいます。
これは個々のマネージャーの意識の問題ではありません。材料がない状態で公平に評価しろというのは、無理な要求です。この「無意識のバイアス」を排除するためには、精神論ではなく「仕組み」が必要です。
発想の転換:「取りに行く」から「出してもらう」へ
マネージャーが部下の働きぶりを拾い集めるのではなく、部下自身に「実績を説明してもらう」仕組みへ切り替えましょう。情報が集まる仕組みを作ることが、公平性の唯一の担保になります。
評価作業を「収集」から「判断」へ変える

部下に「今期の実績を数字でまとめて説明してほしい」と依頼するだけで、マネージャーの負荷は激減します。情報を探す作業が不要になり、届いた資料をもとに「評価を下す」という本来のマネジメント業務に集中できるからです。
評価の「型」を渡し、質のバラつきを防ぐ
ここで、筆者の失敗も書いておきます。
「自分でまとめて説明してほしい」と依頼した結果、スタッフ間で出てくるものの質にかなりの差が出ました。
数字を並べて構造的にまとめてくる人もいれば、やったことを時系列で羅列するだけの人もいる。前者と後者では、同じ働きぶりでも評価しやすさがまったく違います。
何をどう書くかの型を渡さないと、評価の材料としての質がばらつきます。フォーマットを決めておくべきだったと反省しました。
型は複雑である必要はありません。以下の5項目で十分です。依頼する際、何も型を渡さないと、提出される報告書の質がバラつきます。以下の5項目をテンプレートとして渡し、共通言語化しましょう。
| プロジェクト概要 | 担当業務・期間・自分の役割を1〜2行 |
|---|---|
| 定量的な成果 | 数字・達成率・前期比など |
| 定性的な貢献 | チームへの影響・改善提案など |
| 未達と理由 | 達成できなかったことと背景 |
| 次期の目標 | 具体的な指標と期限 |
この型を共有することで、評価者と被評価者の認識ズレを最小限に抑えられます。
当人の資料で評価すると、納得感が生まれる
自己申告型の評価プロセスには、もう一つ重要なメリットがあります。
部下が自分で出した資料をもとに評価が下されると、結果への納得感が格段に上がります。
「評価が低かった」と感じた部下も、自分が提示した根拠にもとづく判断であれば、プロセスへの信頼は保たれます。マネージャーにとっても「なぜこの評価なのか」を説明しやすくなるため、双方の納得感が、同時に上がります。
仕組み化:1on1と期末レビューの設計
依頼と型が揃ったら、次はそれを定着させましょう。個人の意識に頼らず、既存の会議体を「成果報告の場」へと再設計します。
1on1は「進捗報告」から「成果の棚卸し」へ
多くの組織で、リモート社員との1on1は「今どこまで進んでいますか」という進捗確認の場になっています。これでは評価に使える情報がほとんど集まりません。進捗は状態であって、成果ではないからです。
冒頭の2〜3分を「成果サマリーの共有」に充て、「今週良かった成果を数字とともに教えてください」と問いかけてください。これを毎週繰り返すだけで、部下は話すために成果を整理するようになり、マネージャーは評価の材料を毎週少しずつ積み上げられます。
期末に「あの人、何をしていたっけ」と記憶を掘り起こす手間が、大幅に減ります。
アジェンダシートの事前共有
当日に口頭で報告させるのではなく、アジェンダシートに事前に記入してもらう運用を推奨します。
筆者のチームでは、この形にしたことで1on1の性質が変わりました。事前に内容を読んだ状態で対話できるため、当日は書かれた内容を読んで、質問や確認をする場になったのです。確認の時間ではなく、深掘りやフィードバックに時間を使えます。
事前に書く手間は増えます。しかし本人にとっても、その週の成果を言語化する機会になります。
1on1アジェンダの設計例
30分枠の場合の配分です。
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 冒頭2〜3分 | 事前記入されたアジェンダシートを確認。成果サマリー、数字、完了プロジェクト |
| 中盤20分 | 記載内容への質問と確認。課題の相談、フィードバック |
| 最後5分 | 次週のアクションと優先順位。上に報告すべき成果をメモ |
延びる分には構いません。削ってはいけないのは冒頭の確認です。ここを飛ばすと、元の進捗確認に戻ります。
枠は30分でも、実際は延びていい
正直に書いておくと、筆者のチームでは毎週30分の固定枠を取っていましたが、実際には1時間程度使っていました。雑談が長引くからです。
ただ、これを無駄だとは思っていません。雑談の中で施策のアイデアが浮かぶことが多かったからです。
また、個々人のメンタルの調子によって、雑談が多めになる回や「何も決まらなかった」という回もありました。これはエンゲージメント対応として織り込み済みなので、気にしないようにしていました。
リモートでは、廊下ですれ違って交わす会話がありません。その分を1on1が引き受けている面があるからです。
1on1を成果報告だけの場にすると、この機能が失われます。評価のための情報収集と、関係を維持する対話は、同じ枠で両立させて構いません。
期末レビューは「プレゼン形式」にする
期末レビューも、シートを提出させるだけでは形骸化します。
「この期にやったことを数字をもとに3〜5分で説明してください」というプレゼン形式を取り入れてみてください。
準備のために部下は実績を整理し、数字を引っ張り出します。
評価の根拠が双方に見える状態で議論できるため、マネージャーも根拠に基づいたフィードバックが可能になり、結果への納得感も高まります。
評価を成功させるための前提条件
仕組みを導入しても、土台が整っていなければ機能しません。
評価よりも環境整備が先
評価の仕組みだけでは足りない場面があります。前提が崩れていると、仕組みは機能しません。
新入社員(新卒・中途問わず)が成果を出せないのは、能力ではなく「情報へのアクセス権限」や「ツール習熟」の問題であることが多いです。評価の前に、業務を遂行できる環境が整っているかを確認してください。
また、このプロセスは、リモート社員だけでなく出社している社員にも同様に適用してください。リモート社員だけに「実績をまとめてください」と言うと、監視や不公平な管理の印象を与えかねません。
全員に同じプロセスを適用すれば、公平性が担保されます。第3章で見たガイドラインの原則とも整合します。出社している社員にとっても、成果を言語化する習慣は評価の納得感につながります。
まとめ:公平で納得感のある人事評価のために
リモート社員を評価できないのは、制度が悪いからでも、リモートという働き方が悪いからでもありません。
評価する側が、情報を取りに行く構造になっているからです。
これを本人に説明してもらう仕組みに切り替えれば、情報は自然に集まります。評価者の作業は情報収集から判断に変わり、被評価者には納得が生まれます。
まずは今週の1on1から、「今週の成果を数字で一つ教えて」と問いかけることから始めてみてください。その小さな積み重ねが、公平で納得感のある人事評価の第一歩となります。
(出典)
厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf
(閲覧日:2026年9月7日)
パーソル総合研究所「第十回・テレワークに関する調査」(2025年7月時点/正規雇用社員対象)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/telework-survey10/
(閲覧日:2026年9月7日)

